魔界の金曜日  スイミングハイのあと

前回からの続き
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横浜まで 1泊2日の弾丸トラベラー を行った翌日、いつものようにプールへ出かけた。



前日まで丸二日飲み続けだったことと多少の寝不足が心配ではあったが、現役時代の不摂生な生活習慣に比べると健全そのものと言って構わない程の疲労感であった。



秋深まるに連れ、日曜の午前中、プールは空いている。その日も、数名の常連が泳ぐだけのプールでは、1コースまるまる占有できたのだった。いつものようにスロースイミングから始め、4クオーター は泳ごうとしたとき、何故か、ヘッドをいつもよりは深く水中に入れ、水流の抵抗をより低下させるフォームを採った。



普段、ヘッドは水中に没して泳ぐように心掛けてはいるのだが、腕の一掻き毎に呼吸するために軽く頭を持ち上げがちではあった。呼吸するときは、左に首を捻った状態でヘッドが水をかき分ける僅かな水流の窪みを利用し、その時、口の高さは半分水中に没しているのだが、開けた口から空気と共に流れる水を頬張るのであった。



勿論、水は飲み込まず口の中に滞留させるだけである。そして、水と共に入ってきた空気だけを肺に送ってやる。より物理的に表現すると、口腔内の空気圧が水の侵入を防ぎ弾き返してくれるという方が正確かも知れない。呼吸のために口を開けるとき、そこがちょうど空気と水の喫水線で、両者が同時に口の中に入ってきても、人間の身体は良くできたもので、器用に空気だけを取り込むことが出来るのである。



その日、より深くヘッドを沈み込ませて泳ぎ始めたのだが、首を左に捻ったときに呼吸をするためには、頭を沈み込ませた状態で顎を斜め上に引き揚げ、口を空中と水中の境目まで持ち上げる必要がある。つまり、目線は水の中、口はぎりぎり喫水線という位置関係である。このようなフォームを採っても無理な姿勢とは感じられず、むしろ、ヘッドが完全に水中に没することから水流の抵抗が少なくなり、よりスムーズな泳ぎとなるのであった。



更に頭の位置が下がることにより、相対的に腰の位置が浮き上がることから、より強い浮力を得ることができ、その姿勢から繰り出す足のキックは効果的なものとなるのであった。それは、いままで課題であったスピードアップに大いに寄与する結果となった。



いままでのスロースイムでは、腕や足を動かしても全体としては 胸襟と腹筋、背筋で泳いでいた。何故なら、長く泳ぐためには持久力のあるそれら筋肉に頼らざるを得ないからである。腕の筋肉や足の大腿筋は、瞬発力はあるが持久力がない。結果として、FF車のように上体の力だけで泳ぎがちであった。足のキックはどちらかというとバランスを取るためのカウンターの役割をし、推力を得るために積極的に使うことはなかったのである。



今回、ヘッドを沈み込ませたことにより腰が浮き、そこから繰り出す足のキックは、股関節から真っ直ぐ伸びたオールのように水中で弧を描き、強力な推進力となるのであった。



いままでのフォームでは、腰の位置が若干水中に没していたため、その位置から繰り出す足のキックは下を向きがちで、ベクトルとしての推力が下方向にぶれていたのだろう。それが、ヘッドを沈めることにより腰の位置が浮き上がり、足のキックが水平なベクトルとして働くことにより無駄なく強力な推進力と化したのである。



水の中で、いつもよりは目線が下を向く姿勢に多少の戸惑いを覚えながらも、次第にスイミングハイになる感覚に、新しい泳ぎの次元が始まったと感ずるのだった。電子のスピンが軌道を変えるとき、それは新しいエネルギー順位に遷移するときである。いままでの不安定な軌道がちょっとしたエネルギー変動で安定軌道へと遷移する、そのようなエネルギー順位の変化のように、これからの泳ぎは新しい次元へと移行したのだと思うと、大いなる充実感を感ずるのだった。



泳ぎ終わった後、ミストサウナに入り、続けてジャグジーの中で、じっと泡立つお湯に浸かっていた。1泊2日の弾丸トラベラーの疲れが出たのだろうか、およそ、1時間も眠ったようにお湯に浸かった後、さて、上がろうと立ち上がったとき、目に映る景色が一瞬、白くなり、くらくらとした。



泳いだ後、体内の熱を冷却するために 血液が高速で循環し血管を弛緩させている。いつもなら、立ち上がろうとするとき血圧を高めるために血管の収縮が始まるはずなのだが、その時ばかりはそれが弛緩したままで、血液が頭の高さまで回らなかった。貧血である。



ジャグジーの中で腰をかがめ、頭を垂れる。そして一呼吸二呼吸置いて血液が循環し意識が戻ってきてから腰を上げ、プールサイドにある椅子目がけて歩き始めた。一歩二歩と歩いている内に、何となく宙に浮かぶような覚束なさに襲われ、再びくらくらと意識を失った。



気がついたときは、プールサイドに大きく寝そべり、プールスタッフが大騒ぎで介抱しているのであった。



次回へ続く






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