煙のでない秋刀魚

秋深い頃、秋刀魚喰いたし煙が困る、と斯様な状況になっていて、オープンキッチンのレンジフードが 室内の気密性に比べて流体力学的に矛盾のある設計なので、焼き魚は依然として禁止事項なのである。



しかし、形が良く如何にも活きの良さような今年の秋刀魚を見るたびに、美味い焼魚を喰いたいと強烈な欲求が込み上げてくるのだった。思えば、引っ越す前の横浜時代、仕事の関係で飯倉にある○○研究所に2年近く通っていたことがあるのだが、その近くに魚亀という飲み屋があり、昼は魚屋で夜になると居酒屋に変身する非常に気の利いたところだった。



当然、酒の肴は、本業が魚屋だけに店で仕入れた活きの良い魚が格安で出てくるのである。秋ともなると、秋刀魚の塩焼きが名物となり、あるとき、それを頼んで、ビール片手に、いざ、秋刀魚の頭を取り去って食べようとしたとき、店の主人曰わく、この秋刀魚は活きが良いから頭からガブリといって下さいと言ったのだった。



その時まで、秋刀魚の塩焼きは幾度となく食して来たが、鮎の塩焼きのように頭から丸ごと食べるという経験はなかった。そもそも、秋刀魚の骨はかなり硬いと思っていたし、頭の骨は頭蓋骨と言うほどだから更に硬くて食べられないものと思っていたので、いつも、頭とそれに連なる骨を残して身だけを食べるようにしていたのである。残った頭と骨は猫の餌だと思って。



それが、この時、店の主人が頭からいって下さいと言うものだから、つい、酒の勢いもあり、そして、いかにも新鮮そうな秋刀魚の焼け具合から、生まれて初めて頭からガブリと食べてみたのである。そうしたら、その食感の柔らかさと内臓の味噌が味わい深く、たちまち骨毎、全部平らげてしまったのだった。



それ以来、秋刀魚とは頭からガブリと喰う魚となったのだが、如何せん、魚亀以外では、やはり、滅多なことではそれは難しかったのである。新鮮な秋刀魚をよっぽど柔らかく焼いたものでないと、骨が喉に触る。魚の鮮度と焼きの絶妙な技が両立しないと為し得ないことであった。



こちらに引っ越してから季節は秋になり、近海物の新鮮な秋刀魚がスーパーに出回るようになった。いつも横目でそれを見ながら、美味いのは知っているのだが、調理の時に煙の出ることが問題だと諦めていたのである。



ある時、新聞に秋刀魚をフライパンで焼く料理の紹介が載っていて、早速試してみたことがある。それは、キッチンペーパーをフライパンに敷きその上に秋刀魚を載せて焼くものだった。恐らく、秋刀魚から出る油をキッチンペーパーで吸いとり煙が出ないようにしようとしたらしいのだが、残念ながら腕が悪いせいか、記事通りには出来上がらず、すっかり黒こげのカチカチ状態となってしまった。



そもそも、魚を焼くときに、直接火に掛けるときには800℃からの熱で焙ることになり、一瞬のうちに焼き上がるのである。しかし、フライパンの上だとその焼き温度はせいぜい200℃程度のものだから、焼き時間が直火よりは数倍掛かることになり、時間が長いと魚の旨味の元である油と水分が逃げ出してしまう。



そこで、ハタと気がついた。事前に秋刀魚にオイルを回しておいてからフライパンの上で焼くと短時間で焼けるのではないだろうかと。



以下、レシピ:
 ・秋刀魚の開き1尾をオリーブオイルに薄く漬ける
 ・塩、胡椒で味付け
 ・熱したフライパンに秋刀魚を敷き焼くが、フライパンにはガラスの蓋をしてオイルの跳ねを防止する
 ・皮面をしっかり焼いたらひっくり返し身面を軽く焼いて出来上がり

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このように焼くとオイルの熱で早く焼けるし、なにより煙が出ないので、レンジ性能がプアでも煙が部屋に籠もることもなければ匂いが残ることもなく、部屋や壁面を汚す心配がないのである。



人類は鯨をはじめありとあらゆるものを食材とすることでここまで生き延びてきた。そして、また、環境に合わせてあらゆる調理法を試みてきたのである。火で炙ることが出来なければオイルで揚げる。オイルが使えなければ湯で上げる。煙が出てはいけないのであれば蒸し焼きにすると。



生きとし生けるもの、全ての恵みを食すことで人類は自然に帰依してきた。そして、その人類もまたいつか、自然界の恵みとして何者かに喰われる日がやってくるのだろう。その時まで、あらゆる調理の可能性を試み、美味しく頂くことが人類の務めではないだろうか。
しかし、秋刀魚はやはり、火で炙り焼くのが一番美味いかも知れない。





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