黄砂の道  人間世界とホヤ世界

前回からの続き
なまはげ太鼓の興奮もさめやらぬうち、圧倒的な太鼓の音と熱狂的仮面舞踏会にも思える麻薬のような時間の残照に浮かされ、まるでロックコンサートにでも参加したかのように意識が高揚し喉が焼けるように渇きだしたので、その勢いのまま近くの赤提灯へとなだれ込んだ。



その店では、秋田民謡の弾き語りをやってくれるという。その準備が整うまでカウンターでビールを飲み喉の渇きと高ぶった意識を癒している間、目の前に実に珍しいものを見つけたのだった。

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海中に生息するホヤの姿が海水を循環させる生け簀の中にあったのだ。黒ソイの泳いでいる下あたり、海底とでも言おうか、砂の上にゴロゴロと大きな金平糖のような星形の角を突きだして群れていたのであった。



スーパーでよく見かけるホヤはこのように角が張り出してはおらず色も黒ずんでいるので、最初、この店の生け簀で見かけた鮮やかに赤いものが何であるのかよく分からなかった。店の女将に尋ねてみると天然のホヤだという。形がスーパーで売っているものとは違いますねと更に尋ねてみると、スーパーのは養殖物だからと答えが返ってきた。



えっ! と驚き、いままでスーパーで購入していたホヤは養殖物だったのかと初めて知った事実に唖然としたのだが、それなら、目の前にある天然物のホヤを食すべしと、早速注文したのである。

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目の前に出てきた天然ホヤは綺麗な色で形が鮮やか。一口食べてみると、私が知っているホヤの味とは異なり、まるで赤貝とでも言おうか、ホヤ特有の苦みが全くないさっぱりとした活きの良い貝の味がしたのである。天然物と養殖物のあまりに味が違うことに驚き、箸でホヤの殻をさわってみるとずいぶんと硬そうな手応えがするではないか。そこで、そっと手で殻を触れてみたところ、これが、カッチリと硬いのである。



スーパーの養殖物はその殻を触るとブヨブヨとした触感がし、それが何となくホヤを薄気味悪いものとしている大きな理由なのだが、天然物のホヤの殻は甲冑のように硬かったのだ。なるほど、ホヤを海のパイナップルという理由が分かったような気がした。この殻の固さがあればそれはパイナップルの厚いゴワゴワの皮と変わらないし、その身は鮮やかな黄色で食べてみると上等な赤貝のように甘い。正にその姿、その味、海のパイナップルに相応しい。



それにしても、養殖物と天然物がその姿形といいその味といい、あまりの違いにすっかり驚いてしまったのだが、養殖物はいくら海の中とはいえ、まるで牡蛎の養殖のように狭い生け簀の中にびっしりと過密状態で育てられているのであろうと想像され、人口密度ならぬホヤ密度の高い状態で成長を促されているのであれば、きっとホヤ同士その角を立て合うこともなく喧嘩などして傷ものにならないよう人当たりよくホヤ当たりよく、こじんまりと育てられているのであろう。きっと、その所為もあり角の成長が止まり、殻もあたりが柔らかくなってしまったのだろうか。しかし、その身にはホヤのストレスが貯まり、それがほのかな苦みとして残ってしまったのだ。



それに比べ、天然物は深い海の中で大きな角を張り出し何のストレスもなく伸び伸びと育っているのであろう。成長を阻害するいかなる人工的障害もなく、思いっ切り角を伸ばし餌を食み、思いっ切り殻を固くし敵から身を守っている。その身には一切のストレスが貯まらず、ホヤ本来の甘い旨味だけが爽やかに残るのである。



これ、何となく人間世界のことかと思ってしまった。都会の軋轢の中で有無を言わさず生きていく大勢の人たち。尖った主張をすればたちどころに混乱に陥る脆弱な社会。みな当たり障り無く刺激し合わぬよう見て見ぬふりをして自閉的に生きる都会。しかし内奥はストレスの固まり。



ホヤとの違いは人間はストレス発散の方法を知っていることか、うまく発散できる人はますます養殖的世界に溶け込み、発散できない人は自滅していく。天然物ホヤのように伸び伸びと成長できる海があればよいのだが、残念ながら人にとってのそのような海は既に過去のものとなってしまった。



ビールを飲み、天然もののホヤを食し、漸く始まった秋田民謡弾き語りを聴きながら、晩夏の夜は更けていったのである。


次回へ続く





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