リカのポケットは不思議の紅マグロ

谷山浩子の20年以上昔の曲を八甲田春スキービデオのBGMに使ってから、「時の少女」は現在でも健在なのだろうかと気になっていた。
何しろ、この20年間というもの音楽をじっくり聴くとかテレビの歌謡番組を観るという状況にはなかったのだ。


その昔、としちゃんがオーディオマニアであったころ、音質チェックのためのレコードを取り揃えることはあっても、誰かのそれをコレクターのように掻き集めるということはしなかった。
現在のマンションに引っ越した理由の一つも、オーディオ的に考えて鉄筋コンクリートの壁であれば音の響きが良い上に遮音性に優れていると思ったからである。
しかし、壁には配線やスイッチのための穴や隙間がたくさん空いているらしく、また、窓ガラスから回り込む輻射音も予想以上で、隣家や上下階への音漏れを防ぐことはできなかった。
マニアらしくそれなりの装置を手に入れてしまい当面の目的を達してしまったある年末、ウィスキーを飲みながら隣家に音が漏れないようにそっとマイルス・ディビスのミュートトランペットに酔いしれてからは、オーディオへの熱意を失ってしまうこととなった。

であるから、谷山浩子もそれ以来、聴いていない……………



早速、Webで検索してみよう。


ありました。http://taniyama.hiroko.com/ プライベートページのようです。
http://www.taniyama-info.com/ こちらはオフィシャルページ。


プライベートページのブログ風な文書を読んでみると、最近も活躍なさっている様子。ホっ! と安心致しました。
と、同時にその文書の中に、尾崎翠の第七官界彷徨が記されていることを発見し、思わず、としちゃんの甘酸っぱい青春時代が甦ってきた。


その昔、会社に入って間もなく、若気の至りというべきか環境が変わった寂しさからというべきか、或る女性とお友達になり好意を寄せていたのだが、然したる進展もないうちに彼女は、突然、結婚することとなった。
いまから考えてみると二股を掛けられていた訳だが、当時はとしちゃんも未だ若造で彼女とはお互い清らかな思い出のままお別れしようと思い、そのとき読んでいた尾崎翠の本、第七官界彷徨を彼女への結婚祝いとしたのである。
第七官界彷徨がそのようなお祝いに適切かどうかということを考える以前に、その本を読んだときのイメージが何故か彼女と重なるように思えたので、「これから先、迷うようなことがあればこの本を読んで………」と言って手渡したのだった。



このような記憶が在りありと甦って来たものだから、谷山浩子という存在が急速に親密なものと感じられてきた。
30年前の「時の少女」に続く曲が現在どのように変わっているのか、早速、最近の作品リストを調べてみると、年に一度くらいのペースでCDを出されている様子。
全作品枚数も30枚程度なので、えー~い、全部まとめてGETしてしまえ???  とも思ったのだが、さすがに冷静に考え直し、とりあえず、70年台と80年代それに90年代を代表する曲を収録したメモリアル版を中心に数枚ピックアップし、新星堂に駆けつける。


新星堂のCD陳列棚を見てみると、JPOPというカテゴリーの中に谷山浩子のインデックスがあったので、何故かここでもホっ! と安心し、たった2枚の陳列在庫を手に取りレジに行く。そして、その2枚とメモの数枚をオーダーする。




このようにして入手した内の1枚、「Memories」を聞いてみる。
これは、谷山の代表曲をピアノ弾き語りで収録したものだが、「時の少女」を初めて聞いたときの衝撃を再び味わうこととなった。


若いころに比べて麗しさを増した美声で歌われる陰影のある印象的な詞と張りつめるほど美しいメロディ。この感動を言葉で表現することはできない。聴いて頂くしか………………

画像




「船」で始まり「ピエレット」と「ひとりでお帰り」に続くピアノ演奏と歌は、少女時代の失恋の歌なのだろうか、何故か聴くものをして宗教的な祈りを想わせることを禁じ得ない。
薄暗い石造りの教会のなかでステンドグラスがおぼろに浮かび、高い尖塔の小窓から外の強烈な陽射しが蒼い一条の光となって大聖堂の大理石を射る。荘厳なパイプオルガンの低音に鈍い金色に輝く燭台の蝋燭がその炎を紅く揺らすとき、谷山はクリスタルのように透き通ったソプラノで神へ捧げる魂の賛美歌を歌う。凍えるような透明さはやがて時を止め時代を留め人を停める………………



谷山の年齢は恐らく50歳にはなっているだろう。同年代のシンガーソングライターというと、五輪真弓とか中島みゆきとか山崎ハコなどを思い浮かべるが、年相応に年輪を重ねた彼女たちの歌とは異なり、谷山の曲には瞑想する少女らしさを永遠に香らせる不思議さがある。


谷山の25年前の名作「リカのポケット」は歌う。幼い少女が愁いを含んだ寂しさを込めて………

………リカのポケットはいつも ふくらんでいる キャラメルやチョコレートやチューインガム………
………リカのポケットに何を いくらつめても いつまでたってもいっぱいにならない………
………リカのポケットにある日 すきまができた 少し油断をしてよそ見してた時………注1



あのころから時は流れ時代は変わり人は歳取った。しかし、リカのポケットはいつの時代も驚きの歌でいっぱいだ。「たんぽぽ食べて」や「穀物の雨が降る」や最新作の「素晴らしき紅マグロの世界」など、時代を超えて迫り来る永遠のファンタジーたち。



谷山浩子の歌を聴くとき、人は戸惑いを感じるかも知れない。それは、「ピエレット」や「ひとりでお帰り」などの所謂マジ系の歌と、一方、童話のようでもあり幻想のようでもあるファンタジック系の歌が混在しているからである。

しかし、としちゃんは思う。谷山浩子は歌のピカソであると。
谷山のマジな歌は、ピカソで言えば、蒼の時代の端正な画風を彷彿とさせ、谷山のファンタジックな歌は、ピカソ後年の非対称の画風そのものだ。
ピカソが蒼の時代に築いた絵筆のタッチとパラドックスの時代のタッチが変わらないように、谷山のマジ系の歌もファンタジー系の歌もその詞の彫刻の深さやメロディの美しさという点で曲としての強さは同質のものである。いや、そればかりではない。マジとファンタジーは「しまうま」というタイトル作品では、その境界さえ無くなろうとしている。


谷山とピカソの違いがあるとすれば、ピカソは自らの成長と伴に蒼の時代からパラドックスの時代へとその画風を変遷させて行ったわけであるが、谷山はいつの時代に於いても最初からマジとファンタジーが同居している希有な存在なのである。



注1 谷山浩子作詞作曲 「リカちゃんのポケット」より





Memories
ポニーキャニオン
1997-09-19
谷山浩子

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この記事へのコメント

とんちゃん
2007年07月29日 12:10
谷山浩子なつかしいですね。中島みゆきといっしょにやってたラジオ番組が好きでした。公開録音にもいったことあります(あぁ、蘇る青春の日々)。
私は音質にはこだわらないのでiTunes storeからダウンロードして聞いています。ラジオのころに聞いていた「今日は雨降り」「ねこの森には帰れない」「カントリーガール」あたりが好きです。
としちゃん
2007年07月30日 17:30
こんにちは~~
コメントありがとうございま~す。
「とんちゃん王国物語」いつも読ませていただいています。
最近、脱走多いようですが、脱走兵のぽんちゃんによろしく。

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